マクロ経済スライドの調整期間を一致させるか否か――判断は2029年の財政検証後に持ち越されています。その判断は、調整期間一致に対する幅広い層の理解のもとで下されなければなりません。そのために何が必要でしょうか。
第1に、年金制度の説明方法の根本的な見直しです。調整期間一致の本質は、厚生年金保険財政の支出のうち、報酬比例年金を減らし、基礎年金拠出金を増やすという財政構造の修正にあります。その理解の出発点となるのは、国民年金、厚生年金保険、および、基礎年金それぞれの収入と支出の把握です(図表1左)*1。ところが、「2階建て」の説明(図表1右)に捉われるとその出発点に立つことができません。「2階建て」という説明は改めるべきでしょう。

第2に、2004年改正以降の不作為の反省です。同改正での導入以降、うんともすんとも動かないマクロ経済スライドを機能させるためには、名目下限措置の廃止が必要であることは、2004年改正の直後から指摘されていました*2。また、報酬比例年金と基礎年金とでは調整期間にズレが生じ、基礎年金については長期化することは、2009年の第1回財政検証で明らかにされていました*3。早くから分かっていたことなのです。
しかし、今日までの間、2016年の年金法改正におけるキャリー・オーバーの導入など手直しはされたものの*4、名目下限措置廃止をはじめ根本的な対応からは目が背けられてきました。こうした不作為への反省を欠いたまま調整期間一致を持ち出しても、国民の納得を得るのは難しいでしょう。
第3に、調整期間一致の本質に忠実な説明です。政府の説明には大きく3つの難点を指摘できます。改めて整理すると、1つは、積立金の活用という説明です*5。厚生年金保険料の基礎年金への活用あるいは流用と呼ぶのが実態に近いといえましょう。2つめは、国庫負担の増加に関する説明の不在です*6。国庫負担とはつまるところ国民負担です。調整期間一致による基礎年金底上げと、国民負担の具体的内容が示されてはじめて合理的な判断が可能になります。3つめは、調整期間一致の効果がもっぱらモデル世帯で測られていることです。モデル世帯の場合、基礎年金が2人分ですので、単身世帯や共働き世帯に比べ、調整期間一致の効果が大きく計算されます*7。
第4に、財政検証の簡素化です。財政検証に用いられる経済前提は、2009年まで、基準・良い・悪いの3ケースとシンプルでした(図表2)。ところが、2014年財政検証では、A~Hの8ケースとなり、数が増えた上に偶数なので基準がさっぱり分からなくなってしまいました*8。理由は定かではありませんが、基準ケースの所得代替率が仮に50%を割り込むと、2004年改正の公約と齟齬が生じるとの懸念が政府内にあったのかもしれません*9。直近の2024年財政検証では、各ケースに固有名詞がつけられ、例えば、「高成長実現ケース」と「成長型経済移行・継続ケース」とでは、一見してどちらが良いのかも識別しにくくなってしまいました。2009年財政検証以前の姿に戻すべきでしょう。

第5に、他の方法との比較考量です。調整期間一致は、基礎年金底上げを図る手段の1つに過ぎません。実際、2025年改正に向けた議論の過程では、基礎年金への45年加入、正確には基礎年金拠出金算定対象者の60歳から65歳への引き上げも俎上に上っていました。基礎年金底上げに限らず、目的実現の手段については、選挙日程への影響の少なさなど政府にとっての都合のよさではなく、真に望ましい手段は何かという観点に立ち、検討されなければなりません。(2026年6月12日)
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*1 マクロ経済スライド調整期間の一致(3)公的年金の財政構造の修正 | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*2 2004年改正(6)2004年改正時のシナリオ | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*3 2004年改正(8)名目下限措置廃止の頓挫 | 超党派年金制度改革データベース、2004年改正(9)報酬比例年金と基礎年金のマクロ経済スライド終了年度のズレ | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*4 公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案(2016年3月11日提出)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/190-26.pdf。この資料のなかで、「(1)マクロ経済スライドについて、年金の名目額が前年度を下回らない措置を維持しつつ、賃金・物価上昇の範囲内で前年度までの未調整分を含めて調整」とある機能がキャリー・オーバーです。概要については、厚生労働省第3回社会保障審議会年金部会(2018年7月30日)資料2P13を参照。https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000339631.pdf
*5 マクロ経済スライド調整期間の一致(5)積立金の流用批判 | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*6 マクロ経済スライド調整期間の一致(6)国庫負担の増加 | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*7 マクロ経済スライド調整期間の一致(2)その効果 | 超党派年金制度改革データベース
*8 2004年改正(4)人口と経済の前提で変わるマクロ経済スライドの終了見込み | 超党派年金制度改革データベース
*9 A~Eの5ケースで所得代替率は50%を超え、F~Hの3ケースで50%を割り込むという結果でした。第21回社会保障審議会年金部会(2014年6月3日)資料1-1 https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/h26_kensyo0.pdf