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年金制度の現状と課題【解説】

賦課方式と積立方式(4)「二重の負担」の推移

前回、「二重の負担」の虚実についてお話ししました。おさらいすると、660兆円(2024年度)は、過去期間に係る分の給付1,280兆円から積立金300兆円と過去期間に係る分の給付に対応した国庫負担320兆円を差し引いた額として計算されます。「二重の負担」は、賦課方式から積立方式に切り替える際、追加的に生じる訳ではありません。実際は、賦課方式を基本とした現行制度においても強いられている負担の顕在化です。よって、追加的に生じるかのような「二重の負担」という呼称はミスリードであり、「未積立給付義務」とでも呼び換えた方が適当でしょう。図表でも、そのように表記しています(c–a–b)。

未積立給付義務は、当然ながら確定した金額ではありません。実際、2004年度の480兆円から、以降、550、690、780、660兆円と推移しています(図表)。未積立給付義務の金額には、主に次のような要因が影響を与えます。

第1に、対象期間です。財政検証の回を重ねるごとに始点となる基準年度とその約100年後の終点が5年ずつ後ろにズレます。例えば、2004年財政再計算では(2004年まではこのように呼ばれていました)、対象期間が2004年度から2100年度でしたが、2024年財政検証では2024年度から2120年度となっており、20年間のズレがあります。

第2に、賃金上昇率、物価上昇率、利子率などの経済前提です。これらの設定いかんで、財源と給付の金額は変わります。過去期間に係る分の給付1,280兆円(2024年度)も、今後、賃金上昇率>スライド調整率となる、すなわちマクロ経済スライドが常に機能するという楽観的観測に基づいています。実際には、そのようにならず、未積立給付義務は膨らむ可能性があります。なお、2014年財政検証以降、経済前提における基準ケースが廃止されており、時系列での比較にも支障が生じています*1。

第3に、財政検証で用いられる平均寿命の前提です。平均寿命の伸びは給付期間の長期化に直結します。例えば、男性の平均寿命の設定は、2004年財政検証では81歳でしたが、2024年財政検証では85.9歳へと約5年も伸びています。ただし、限られた財源の範囲に収まるように給付を削るというのが2004年改正の発想です。よって、平均寿命の伸びによる給付増も、マクロ経済スライドの適用期間延長を通じた給付抑制によって帳尻が合わせられることになります*2 。

第4に、年金制度、および、制度運営者としての政府の自覚です。2004年改正でマクロ経済スライドが導入されはしたものの、名目下限措置がネックとなり2015年まで全く機能しませんでした。政府は、そうした問題を把握しながら見て見ぬふりを続けてきました*3。全く自覚に欠けた態度です。名目下限措置を廃止しておけば、過去期間に係る分の給付は1,280兆円を下回っていたはずです。その分、将来期間に係る分の給付は上積みされたでしょう。

第5に、政府による積立金の運用成績です。2026年8月27日の日本経済新聞には、積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用成績の不振が報じられています。「過去10年の成績を市場平均リターンと比較すると『3勝7敗』と振るわない。超過収益を狙う『アクティブ運用』が今のところ裏目に出ている」*4。言い換えれば、GPIFが徒に(いたずらに)頑張らなければ、積立金は300兆円より多く残されていたということです。

未積立給付義務を正確に推計し、それをいかに抑えていくか――年金財政を運営するうえで極めて重要な視点のはずです。未積立給付義務を少なくとも増やさない、出来れば10兆円でも20兆円でも減らせれば、その分、将来期間に係る分の給付に回すことができます。「公的年金の財源と給付の内訳」を、これまでのように、「二重の負担」を強調し、積立方式を否定するために用いるのではなく*5 、より積極的に利用する発想の転換が必要でしょう。(2026年9月2日)

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*1 https://nenkindb.jp/2004年改正(4)人口と経済の前提で変わるマクロ/を参照。
*2 https://nenkindb.jp/2004年改正(5)マクロ経済スライドの終了年度の/を参照。
*3 https://nenkindb.jp/2004年改正(6)2004年改正時のシナリオ/を参照。
*4 日経の記事では「今のところ」とタイミングの問題であるかのような表現がとられています。しかし、政府(GPIFのGovernment)の名を冠した300兆円もの巨大ファンドが、他の市場参加者を出し抜きながら、市場平均を上回るリターンを上げることが果たして可能なのかという構造そのものが問われる必要があります。
*5 https://nenkindb.jp/賦課方式と積立方式(1)「公的年金の財源と給/ 注3を参照。


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