130万円のほかに106万円も壁として認識されています。130万円と106万円それぞれの性質、および、関係について改めて整理しておきましょう*1。
130万円は、被扶養認定基準です。一組の夫婦がいるとします。妻が夫の被扶養者に該当するか否かは、妻の年収をもって判断されます。その年収とは、現時点の状況が今後も続くという想定に基づいた見込みです*2。判断する主体は、夫の勤務先と健康保険組合です。妻が、第3号ではないと判断されれば、第1号か第2号になります。
他方、社会保険には、被用者保険適用基準もあります*3。社会保険制度は、被用者保険とそれ以外とに大きく分けられています。被用者保険の代表が、厚生年金保険、協会けんぽ、組合健保、共済組合であり、それ以外の代表が、国民年金、国民健康保険です。よって、被用者とみなされるか否かが制度にとって重大な関心事となります。正社員であれば問題ないのですが、パートやアルバイトとなると見極めが必要となってきます。それが被用者保険適用基準です。判断する主体は、パート先、アルバイト先です。
被用者保険適用基準は、企業の大小によって異なり、小規模企業の方が、パートやアルバイトに被扶養の範囲内でより長時間働いて貰える仕様になっています。中小零細企業への政策的な配慮なのでしょう。企業の大小は従業員規模50人が分岐点とされ*4、まず、50人以下の場合、被用者保険適用基準は、週所定労働時間および月所定労働日数が正社員の4分の3以上となっています*5。金額ではなく労働時間と日数です。
ただ、こうした基準があるにはあるのですが、実際には被扶養認定基準130万円にとって代わられているとみられます。正社員の週所定労働時間を37.5時間と仮定します。その4分の3はおよそ28時間です。例えば、最低賃金1,121円*6で52週働くと年収163万円になり、130万円を軽く超えてしまうからです。従業員規模50人以下であれば壁は年収130万円――という説明をしばしば耳にするのはそのためでしょう。
次に、従業員51人以上の場合、被用者保険適用基準は、おおまかにいえば、次の(A)かつ(B)です*7。
(A) 所定内賃金月額8.8万円以上
(B) 週所定労働時間20時間以上
「106万円」とは、(A)を12倍した105.6万円を丸めて慣例的に用いられているに過ぎませんし、時間外手当や賞与は含まれません。(A)のみで社会保険制度上の被用者か否かが判断される訳ではなく、(A)と(B)のいずれも充足して初めて被用者とみなされます。例えば、所定内賃金月額が9万円であっても、週所定労働時間が19時間であれば、被用者とみなされません。このように、「年収106万円の壁」という表現は明らかにミスリードです。
現在、(A)と(B)の2つを課す必然性は薄れています。例えば、最低賃金1,121円で週20時間、月4週働くと月収は9.0万円となり、8.8万円を超えるからです。実際、2025年の年金法改正によって、(A)は2年以内に廃止されることになっています*8。それをもって「いわゆる年収106万円の壁がなくなる」と政府は言うのですが、期待を持たせ過ぎです。実態は、(B)だけでもはや十分なので、(A)はお役御免ということに過ぎません。いわば「20時間の壁」が残ります。
もっとも、この「20時間の壁」も、早晩、130万円にとって代わられると見込まれます。週20時間、52週働いた場合、年収130万円になる時給は1,250円です。東京都と神奈川県の最低賃金は既にこの水準に肉薄していますし、政府は早期の1,500円実現を掲げています。今後、賃金上昇とともに、週所定労働時間20時間を満たさずとも年収130万円を超えるでしょう。すると、労働時間短縮による就労調整も想定されます。「壁」問題の解決は、時間との闘いとなっています。(2026年6月30日)

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*1 厚生年金保険(加入4)106万円の壁というミスリード | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*2 130万円の壁(1)看護師Aさんの事例 | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*3 厚生年金保険(加入2)被保険者資格 | 超党派年金制度改革データベースを参照。
*4 2027年10月から段階的に引き下げられることが、2025年の年金法改正で決まっています。https://www.mhlw.go.jp/stf/web_magazine/closeup/09.html
*5 日本年金機構HP。正確には、次のように記載されています「1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上」https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/20150518.html
*6 令和7年度の全国加重平均。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/index.html
*7 加えて、(C)雇用期間の見込2か月以上、(D)学生ではない、計4つがありますが、煩雑になるので本文では省略しています。
*8 2025年6月の年金改正法公布から3年以内に廃止されることとなっています。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html