ここまでの議論を踏まえつつ定額負担という国民年金保険料の負担方法について改めて整理します。まず、正当化できる根拠です。
第1に、国民年金も社会保険であることです。そもそも社会保険においては、自分が受け取るものに要する費用は、出来る限り自分で頑張って払うべきという自立した個人が想定されています(国民年金(負担2)保険料の逆進性を参照)。言い換えれば応益負担です。よって、お金持ちであろうがなかろうが同額を負担する定額負担には理があります。
ただし、わが国の年金の財政方式は、賦課方式すなわちその時々の現役世代から高齢世代への所得移転を基本としており、収益率に着目すれば、負担と受益の対応は、高齢化の進行とともに薄れることは否定できません。なお、この点に関しては、収益率への着目そのものを否定する厚生労働省のスタンス*1の妥当性を含め、改めて解説します。
第2に、クロヨン問題を回避できることです。クロヨンとは、給与所得者、自営業者、農林漁業者、それぞれに対する税務当局の所得捕捉率が9割、6割、4割であろうという通念に由来する言葉です。給与所得者は、所得税が源泉徴収されるため、所得がガラス張りであるのに対し、自営業者と農林漁業者は、収入から経費を差し引いた所得を税務当局に自ら申告します。9割、6割、4割かという割合はともあれ、所得捕捉率に差が生じることは十分にあり得ましょう。定額負担であれば、そうしたクロヨン問題を回避することができます。
他方、正当化できない根拠もあります。
第1に、実際問題として、定額負担による制度運営が困難に直面していることです。第1号被保険者のうちおよそ5人に2人が全額免除者であることがその証左といえます(国民年金(負担3)保険料納付率と全額免除を参照)。
第2に、厚生年金保険制度のなかでは、垂直的所得再分配がなされているにも関わらず、国民年金制度のなかではなされていないことです。垂直的所得再分配とは、お金持ちがそうではない人の分を含め多めに払うということです(国民年金(負担2)保険料の逆進性を参照)。例えば、厚生年金保険料18.3%のうち基礎年金拠出金分をざっくり5%とすると(厚生年金保険(負担1)加入期間40年超の保険料負担を参照)、年収1,000万円の人は基礎年金拠出金50万円、同様に200万円の人は10万円となります。受け取る基礎年金は同じです。こうした垂直的再分配が厚生年金保険制度のなかでは行われているのに、国民年金制度のなかで行われなくてよいのかという疑問が当然湧いてきます。
以上のなかに登場した「所得捕捉率」と「垂直的再分配」は、もっぱら租税の用語です。定額負担の是非をはじめ社会保険ひいては社会保障のあり方は、租税と一体的に議論されなければならないことが改めて確認されます。
*1厚生労働省のHP( https://www.mhlw.go.jp/nenkinkenshou/)「いっしょに検証!公的年金」には次のようにあります。「『若い世代は、これから納めていく保険料よりも将来受け取れる年金額の方が少ないから、払うだけ損だ』という意見が聞かれます。公的年金制度は社会保障の一種で、高齢・障害・死亡など誰にでも起こり得るリスクに社会全体で備え、皆さんに『安心』を提供するものです。そのため、経済的な損得という視点で見ることは、本来適切ではありません」。この文章の問題点は改めて解説しますが、1つだけ指摘しておきます。「損得」という、人を蔑むかのような表現が用いられていることです。社会保険が標榜されるもと、被保険者が、払った保険料と受け取る年金を比較するのはごく自然な感覚のはずです。