2026年1月13日
岡田克也衆議院議員・河野太郎衆議院議員対談2025/12/18
自民・民主7議員による2008年の提言
河野)2008年12月に自民党と民主党議員7人で
「いまこそ、年金制度の抜本改革を」(🔗PDF)をまとめました。今ふり返ってみてどうでしょうか?
岡田)私が民主党の代表だった2004年頃に小泉総理に党を超えて年金の議論をしようと申し上げて、衆議院と参議院を一緒にした委員会ができました。画期的なことでした。ただ実際の議論が進む前に郵政解散(2005年8月)になり、私も代表を辞め、年金改革の議論が進まなくなりました。
そこで改めて有志の議員でやろうということになり、あの勉強会を始めました。自民党からも河野さんや野田毅さん、亀井善太郎さんのような有力な議員に参加してもらい、民主党からは枝野幸男さん、古川元久さん、大串博志さんも入り、かなり詰めた議論をまじめにやりました。
河野)そうですよね。非常にまじめにやりましたね。
岡田)結論も私はかなり突っ込んだものができたと思っています。抜本的に変えるとすれば、ああいう結論以外はないんじゃないかと今でも思っています。
河野)2004年に年金改革をやろうじゃないかとおっしゃった時の問題意識というか、課題というのはどこにあったのでしょうか?
岡田)それまで年金は政治のメイン・イシューでした。われわれも年金は今のままではもたないと思っていて、独自の改革案を選挙の時に党として打ち出しました。その後、年金未納問題が出てきて、それで自民党が選挙に負けたり、菅直人さんが代表を辞めたり、といろいろありました。非常に重要な問題だったことはまちがいありません。
河野)2004年に年金大改正が行われ、「100年安心」という話になって、あの瞬間から「年金は終わった話」のように自民党内では思われるようになりました。「年金制度は大丈夫だから他の課題を議論しよう」となりました。ところが、2004年改正は、要するに、年金は払える範囲で払いますという改革ですから、年金の原資が小さくなればもらう年金もどんどん小さくなっていきます。年金制度は破綻しないけれど、年金生活は破綻するかもしれないというものでした。厚生労働省からすれば、制度を一生懸命支えるのが責務なので「制度は維持できます」といいます。しかし、政治からすれば、年金の金額がどんどん少なくなって年金生活が破綻してしまえば元も子もありません。そしてその問題意識は今も強く持っています。制度を守ろうとする厚生労働省と、生活を守ろうとする政治とズレがあります。
岡田)マクロ経済スライドが画期的な制度であったことはまちがいないと思います。自動調整弁のようなもので給付を抑制していく、保険料に上限を設けて固定する、今ふり返ると現役世代の社会保険料の上昇を抑えるということですから、意義はあったと思います。ただ、おっしゃるようにマクロ経済スライドの結果、どんどん給付が減っていき、100年後に制度はあるかもしれないけれど、年金として意味のある給付水準なのか、という問題があります。われわれはそういう問題意識をもって違う改革に取り組んだということだと思います。
今これだけ物価が上がって実質的に年金が下がるという現実があり、年金生活、とくに基礎年金だけで生活していらっしゃる方々はとても大変な状況になっています。低年金者に対する何らかの手当が必要です。また将来的に今のまま保険料を固定したままやっていけるかというとかなり疑問があります。冷静に今の制度を評価して問題があれば、手直しや抜本的な改革が必要ということになると思います。
河野)あの時は老後の最低保障をする年金は税でやらざるを得ないというところは合意をして、財源もやはり消費税がベストではないか、その代わり資産がある人やほかに収入がある人はクローバック(*注:高所得者に対して支給された年金の一部を返納させる仕組み)の対象にして、必要な人にだけ払うという考えもあった。
岡田)そういう考え方と、あとは年金に課税して税金として戻してもらうという考え方と2つあった。
最低保障は税財源で
河野)保険料方式では、現役時代の所得が少なくて保険料を払えなかった人は将来の年金も少なくなってしまうので、最低保障のところは必要とする人を対象として税でやろうということになりました。こういう考え方は今広まりつつあるように思います。ふり返ってみてその点はどうお考えでしょうか。
岡田)制度として非常にわかりやすく、最低限の保障は税でやるというのは、税の本来の役割です。最低限のところは税でやり、プラスアルファのところは自分でやるというのは、理念的には整理されたものだと思います。最低限の保障と生活保護との関係をどう整理するのかは考えなくてはなりません。おそらく生活保護のかなりの部分が、最低保障年金でカバーできて、それでもカバーできない例外的な部分についてはプラスアルファで生活保護的なものを考えるということです。これから生活保護受給者が増えていくと予想されるなかで、最低保障年金で一律にカバーするというのは、わかりやすいし魅力的だと思います。
河野)私もわかりやすくて必要な人にきちんと手当てできる制度だと思います。ただ自民党総裁選挙で最低保障を税でやろうと言ったところ、言った瞬間に「消費税は何パーセントになるんですか」と記者に聞かれ、そこだけにフォーカスされてしまったことがあります。また、2008年の有志の年金改革提言のときに厚生労働省の記者クラブで記者会見したのですが、記者たちから「これは新党の話ですか?」みたいな話が出て愕然としました。それなので、今やっている超党派の年金勉強会では、記者の方々にもしっかりブリーフィングをして理解していただくように努めています。2004年の年金改正を知っている記者は、もうほとんどいません。そこから理解してもらうことが大切だと思っています。
岡田)そうでした。
河野)メディアに理解してもらって、メディアにきちんと報道してもらうことが大事だと思います。
岡田)今も基礎年金には半分税金が入っているわけですから、それが100%になるということなら一定の増税が必要になることはまちがいないですが、そのこととメリットをどう判断するかということです。これから消費税を増税するのは簡単なことではありません。将来的には増税は避けられないでしょうが、増税で得た税収を年金に使うのか、それともこれからさらに予算が必要になる医療や介護に使うのか、という問題もあります。議論した当時に比べて今の方が消費税に対するネガティブな感情が強くなっています。将来は北欧諸国みたいに消費税20%以上もあり得るといった議論も当時はありましたが、今はそういう話は出てこなくなりました。医療や介護の問題もあって、年金だけの議論では済まないと思います。
国民の意識と年金制度
河野)あの時われわれは、二階部分は積立方式にしよう、それも完全積立方式にして保険料は確実に年金額に反映される、というものを提案しました。最近、「もう年金はやめてください。自分でNISA、iDeCo(個人型確定拠出年金)でやります。」という若者の声が非常に多くなりました。厚生労働省は、賦課方式から積立方式に移行すると「二重の負担」が出てくるので不可能だといいます。しかし、仮に年金保険料を自分で積み立てにまわしていたとしたらもっと高い収益が期待できることを考えると、潜在的には「二重の負担」が発生している状況と言えます。それを考えると何かやり方があるのではないかと思います。
岡田)考え方としては、将来設計は自分でやるというのが、わかりやすいと思います。ただ、それを年金制度ではなくて、自分で完全にやるのが本当にいいのかというと、国が最終的に保障する仕組みは一定程度いると思います。二階部分が不要だという議論はいかがなものかと思います。自分が年金保険料をどれだけ積み立てていて、それがどういうふうに運用された結果とこういう年金額になりますということが、きちっとわかりやすいことが大事です。最近年金の運用のやり方も相当変わって、現時点でみると株高もあっていい成績をあげている。そうなると自分でやるよりもプロに任せた方がいいという考え方もあるでしょう。
河野)「年金はあてにならないから自分でやらせて下さい」という人に「ちょっと待って下さい。自分が何歳まで生きる前提で積み立てるのですか?」と尋ねると、「うっ」と答えにつまります。何年分お金を積み立てればいいのかわからないのに自分で積み立てるというのは、けっこう乱暴な話だと思います。国の年金なら亡くなるまで保障が続きます。また、自分で積み立てようと思っていても、二十代のうちは趣味にお金をかけ、三十代は家を買ったり、四十代は子どもの教育にかかったり、と結局気づいたら自分で積み立てられなかったとなるリスクもあります。そういったリスクに若い人は気づいていないこともあります。やはり国がきちんと関与することは必要じゃないかと思います。国がある程度強制的に保険料を出させて、それを積み立てるというのは必要ではないかと思います。
岡田)それに関連して国民の意識も変わらないといけないと思います。実は私の事務所でもスタッフに70歳くらいまで働いてもらっていますが、「働いて収入があるのだったら、70歳までは我慢して厚生年金をもらうな。その方が多くもらえる。」と言っています。ところが「早く死んだら損だ」と言って年金をもらっています。年金制度はそういうものではないはずです。「長生きのリスク」をどう分かち合うかということが、なかなか理解されていません。
河野)もうひとつあるのが、生活保護と基礎年金の逆転です。私の地元(神奈川県平塚市、茅ヶ崎市、大磯町)では生活保護の扶助費の方が基礎年金より高い状況です。それなら保険料を払って少ない年金をもらうよりは、保険料を払わずにいざとなったら生活保護を受けた方がいいじゃないか、と考える人が出てきてしまいます。生活保護なら医療費もタダだし住宅扶助もあります。やはり岡田さんがおっしゃるようにここを一本化していく必要がありますね。
岡田)病気の方などは基礎年金だけでは生活できない現実もあるかもしれませんが、そういう方には医療費の仕組みのなかで調整して対応し、基本は基礎年金一本で生活保障していくという考え方がわかりやすいし、公平感もあると思います。
河野)今は住宅扶助みたいなものを出していますが、地域によっては空き家も多く、そういう地域では現物で支給する、たとえば公営住宅や一戸建てをシェアハウスのように住んでもらうことも考えられます。住むところと医療は現物で支給することにして生活費は基礎年金に一本化していくべきだと思います。
岡田)私たちの議論が最後まで決着しなかったのが数百兆円の過去債務問題です。ここの解決が難しい問題です。これを50年かけて返済していくというのが、われわれの結論でした。あまり短期間で返済しようとすると負担が偏ってしまいます。
河野)ひとつの世代に負担を集中して負わせないためになるべく長期で返済していくという話でしたね。
岡田)それにしてもかなりの金額です。これを消費税で返済するとなると、また消費税の議論になります。使用者(企業側)が負担している社会保険料を財源とするという考え方もあります。日本銀行が持っている株式やETF(上場投資信託)の売却益という考え方もあるかもしれませんが、それを年金だけに使っていいのかという議論もあります。
政治の責任
河野)2025年12月に立ち上げた超党派の年金勉強会は、自民党、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、それから公明党および有志の会の議員が個人の資格で参加してくれることになっています。今後の年金の議論はどのように進めていくのがよいでしょうか。
岡田)われわれの改革案は、かなり具体的でした。過去債務の問題だけは、はっきりとした答えが出せませんでした。超党派の勉強会でも、自己完結的なひとつのプランをつくって、現行制度とどちらがいいのか比較してもらう、ということだと思います。
河野)世の中に訴える時にどのような点に気をつければよいでしょうか?
岡田)今年金を受け取っている世代、あるいは、近々受け取ろうとしている世代が、新しい年金制度によって受け取る年金額が減ることがないと保証する必要があるでしょう。あとは過去債務の負担をどうやって分かち合うかという問題があります。これからの世代にとってはシンプルな制度で「こっちの方がベターだ」という仕組みであることがポイントになると思います。
河野)先ほど話の出たマクロ経済スライドが2004年改正で導入されはしましたが、本来、賃金上昇率よりもスライド調整率の方が大きければ年金額をマイナス改定しなければ年金財政上つじつまが合わないものを、何となく年金の名目額が減るのがダメだといって、名目額を維持してきました。そのように政治が妥協してきた部分があり、それが年金財政を悪化させたという政治の責任があると思います。これから政治はどうすべきでしょうか。政権交代の都度、年金制度が変わるようではいけません。選挙の時にこれを材料にすると厳しいことは言えなくなってしまいます。そうしたなかで、与野党が協力しながらやって行くという時に、どういう前提で議論したらよいでしょうか?
岡田)与野党で議論の場を設けてきちんとした答えをつくるしかありません。簡単ではありません。民主党政権の時に「社会保障・税の一体改革」をやり、自民党と民主党と公明党で合意しましたが、あれは先々の選挙が厳しいことはわかっていながら、野田佳彦総理の何かひとつは成し遂げたいという思いがあって実現しました。現実にわれわれは選挙でぼろ負けするわけですけれども、目の前の選挙のことよりも国民の将来を考える政治家が一定数いないと本当の改革はできないと思います。
河野)今までみたいに自民党、あるいは自公連立政権が、数の力で押し切れてしまうよりは、少数与党であったり、過半数ギリギリであったりという、野党の意見を聴きながらやっていかなくてはいけない政治状況の今の方が改革は進むのではないでしょうか?
岡田)どうでしょうか。今の状況は、野党各党が出してくるそれぞれの目玉政策を与党が飲み込むかたちで成り立っています。結果はいびつな姿になっています。たとえば、給食無償化、私学も含めた高校授業料無償化は、それぞれ重要な政策課題であることは承知していますが、教育予算全体のなかで優先順位を付けた時にそれが最優先されるべきか、限られた教育予算のなかで、教員の待遇をよくするとか教育の質を上げるための予算とか、そういうものがどこかへ飛んでしまっているのではないでしょうか。今のやり方が必ずしもいいとは思いません。
河野)確かに少数与党で予算を通すには野党の支持がいるので、結果として野党が要求する減税と給付を増やすことになり、財政が悪くなったというのはその通りだと思います。政治が財政の枠を考えながら、増やすのではなくて、優先順位を入れ替えます、という議論をしないといけないと思います。
岡田)その通りで、枠を取ってしまえば、何でもできます。いい話ばかりしていますが、現実は財政が悪化してしまい将来どうなるのか、ということです。
河野)確かに円安も進んでいます。予算の規模はこうだという枠を決めたなかで、こっちとそっちどちらを優先しますか、という議論を与野党でしなければならないと思います。そのなかで年金の議論をどこへ位置づけるかが大事だと思います。
岡田)少子高齢化が進んでいくし、金利が上がって国債費は上がるし、防衛費も増えていくということもありますから、必要な社会保障のための予算を確実に確保するためには、今が正念場ですね。簡単に優先順を付けられない状態に陥っていて、結果的に赤字国債が積み上がるという政治になりかねない。
河野)まず与野党でどう財政を均衡させるかという絵を描いた上で、そこに何を載せていくのかという議論をしていかないといけません。大盤振る舞いができる状態ではないことを世の中の人に理解してもらわなくてはいけません。資本主義なのですから経済は民間が引っ張っていくという合意のもとに前に進めていく必要があります。
岡田)30年間も実質賃金が上がらなかった珍しい国ですが、なぜそうなったのかをさらに検証しないといけません。
河野)本日は、貴重なお話をいただき、まことにありがとうございました。