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2026年6月3日

<講演>単身高齢女性の貧困について

2026年5月19日、国際医療福祉大学の稲垣誠一先生をお迎えし、「単身高齢女性の貧困について」と題してご講演いただきました。以下、講演要旨をご紹介します。

稲垣誠一先生ご略歴

名古屋大学大学院で理学修士(数学専攻)、東京国際大学大学院で博士(経済学)を取得。厚生省年金局、ILO社会保障局、農業者年金基金、一橋大学経済研究所、東京工業大学大学院などで、年金数理・統計・社会保障分野の実務と研究に従事。現在、国際医療福祉大学大学院教授、公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構特別招聘研究員。

単身高齢女性の貧困について

-年金制度の構造的問題と改革の方向性-

国際医療福祉大学教授 稲垣誠一

「単身高齢女性の貧困について」PDF

単身高齢女性の貧困の背景に年金制度の問題

単身高齢女性の貧困の背景には、公的年金制度の構造的な問題があります。基礎年金は保険方式をとっているため、経済的に苦しくて保険料を払っていない(払えなかった)人は満額受け取ることができません。国民年金保険料の納付状況は悪く、免除者が27%、納付猶予が16%、未納者が5%に達しており、600万人以上の人が納付していません。国民年金保険料を納付している人は51%に過ぎません。現行制度では将来のために保険料を支払う経済的余裕のなかった人たちが、老後の生活で不安を抱えざるを得ません。基礎年金が最低限の生活を保障するという本来の機能を果たしていません。

高齢者の貧困率を配偶者の有無・性別にみると、特に単身高齢女性(未婚・離別)が深刻です。単身高齢女性(未婚・離別)の貧困率は将来的に49%になると予想されています。他方、有配偶の高齢女性の貧困率は11%です。また、死別した単身高齢女性は配偶者の遺族年金を受給できる場合が多く、貧困率は20%にとどまります。2020年の国勢調査によると50~59歳の女性のうち単身(離別)が11%、単身(未婚)が13%ですが、将来はさらに増えると予想されます。

単身高齢女性の貧困リスクが高い主な理由としては、次の3点があげられます。

  1. 配偶者の所得や配偶者の遺族年金に頼ることができず、自らの年金だけが老後の収入源となります。
  2. 現役時代の保険料拠出に応じて年金給付水準が決まるため、雇用や賃金の男女格差が大きいこととあいまって、女性の年金給付額は少なくなりがちです。
  3. 老後の一人暮らし率が高く、生活費を一人で賄う必要があります。

単身女性の老後生活への不安についての調査によれば、単身女性は「年金保険料の免除・未納」や「持ち家」がないことが不安の大きな要因になっていることがわかります。年金保険料の免除や未納があると年金を満額でもらえなくなり、そのことが不安の原因になっています。「持ち家」については住宅政策により対応する必要がある一方で、「年金保険料の免除・未納」の問題には年金制度改革により対応する必要があります。

第3号被保険者制度の現状と問題

第3号被保険者とは、サラリーマンの夫(妻)を持つ一定収入以下の妻(夫)が保険料を払うことなく、年金受給資格を得る仕組みですが、賛否両論あり改革の方向性は定まっていません。第3号被保険者は公平性の観点から批判されることが多いのですが、その核心はサラリーマンの配偶者は保険料ゼロで済むのに対して自営業者の配偶者は保険料を負担せざるを得ない点にあります。職業によって配偶者の保険料負担が異なるのは合理的ではありません。根本原因は、第1号被保険者(国民年金加入者)の保険料が収入に関係なく定額であることにあります。

この問題を解決するために基礎年金の税方式化を提案します。国民年金保険料がなくなれば、自営業者とサラリーマンの配偶者を区別する根拠がなくなります。基礎年金の税方式化は、低所得者(非正規雇用者)の低年金・無年金問題を解決する貧困対策であると同時に、第3号被保険者問題の根本的解決策です。

基礎年金の税方式化の具体策(提言)

老後の生活不安を緩和するためには、税方式による最低保障年金を導入するべきです。単身高齢女性の貧困リスクの背景には、就職氷河期で雇用環境が悪い時期に非正規雇用を余儀なくされたり、男女の賃金格差や雇用格差の影響を被ったりといった要因があり、自己責任と切り捨てるわけにはいきません。個人の問題ではなく、社会全体の問題と捉えるべきです。
若い世代ならともかく、現在の中高年の高齢単身女性にiDeCoやNISAで資産形成を始めることを求めても無理があります。日々の生活に精一杯の人たちに自助努力でどうにかしろと言っても意味がありません。高齢単身女性の貧困対策として基礎年金の税方式化が有効です。

現在の基礎年金は保険方式であるため、保険料を払えない低所得者・非正規雇用者が制度から取り残されています。基礎年金を満額で受給できない人は生活に困窮することになります。
そこで75歳以降の基礎年金を税方式に転換し、最低保障年金を導入する制度改革が望ましいと考えます。75歳以降とするのが提言のポイントです。今後は、75歳前後まで働く人が増えると見込まれます。65歳から75歳までは個人差が大きく、一律に65歳から年金を支給する必要はないでしょう。65~74歳の間は多様な働き方を前提に現行制度と同じく納付期間に応じた給付額としますが、その一方で75歳以降は税方式で一律に満額給付とします。

こうした新しい基礎年金制度は、75歳までの財源は保険料負担で賄い、75歳以降は税で負担します。税の負担はおそらく14兆円超が必要ですが、これは現行制度の国庫負担14兆円より少し多い程度になると見積もっています。国民負担は少し増えますが、65歳から全面的に税方式をとるよりは大幅に少ない国民負担で済みます。毎月17,920円の国民年金保険料負担は不要になり、18.3%の厚生年金保険料は13.4%に下がります。保険料の総額も給付額も現行制度と総額ではあまり変わりませんが、財源が変わります。

なお、65~74歳の旧基礎年金については、これまでに納付した保険料(第3号被保険者期間を含む)に対応する給付は、改革後も引き続き支給されます。ただし、満額の旧基礎年金を受給するためには、削減された保険料相当額を任意保険料として新たに拠出する必要が生じます。言い換えれば、任意拠出をしない場合でも、これまでの納付実績に応じた年金は確保されます。それに加えて、誰もが75歳からは保険料納付の有無にかかわらず最低保障年金を受給できるようになることの意義は大きいと考えます。

基礎年金の税方式化のメリットと財源

基礎年金の税方式化には6つのメリットがあります。

  1. 国民年金保険料の未納問題はなくなり、免除制度も不要になります。
  2. 国民年金の定額保険料の逆進性は解消され、学生の保険料負担の問題もなくなります。
  3. 最低保障年金の導入により低年金・無年金問題もなくなります。
  4. 就労を抑制する「年収の壁」もなくなります。
  5. 保険料を納める期間を現行の60歳までから65歳までに延長する案が政府から提示されていますが、その必要もなくなります。
  6. 国民年金保険料の徴収事務が不要になり、行政コストの大幅な削減につながります。

基礎年金はそもそも老後の生活の最低保障が目的ですが、マクロ経済スライドで給付水準を引き下げることは本来の趣旨に反しています。税方式化により給付水準の過度な低下を避けつつ、制度の持続性を高めることができます。また税方式化により現行の年金生活者支援給付金制度は不要になります。

税方式化に対しては税負担増の懸念があるかと思いますが、65歳からではなく75歳以降の適用とすることで現行の国庫負担の組み換え程度で対応可能になり、税負担増が限定的です。現行制度を維持した場合の将来コストと比較すれば、十分に合理的な選択肢と言えるでしょう。

新しい制度を提案すると「移行は難しい」と批判されがちですが、今の制度に問題があることが明らかな中で最初からあきらめるのではなく、「どうすれば移行できるか」の建設的な議論が求められます。超党派年金勉強会でも「どうすれば移行できるか」の前向きな議論をお願いしたいと思います。


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