マクロ経済スライドの適用期間中、毎年度の年金額改定の際、賃金上昇率あるいは物価上昇率からスライド調整率が差し引かれます。調整率とは有体にいえばカット率であり、大まかには次のように定義されています*1。
スライド調整率(%ポイント)= △(被保険者の減少率の実績)+0.3
例えば、足もとの被保険者が△0.5%であれば、スライド調整率は0.8%(=△(△0.5%)+0.3)となります。年金財政を維持するうえで、給付抑制は避けて通れません。もっとも、スライド調整率の設計には根本的に改善すべき点があります。
第1は、右辺第2項が0.3に固定されていることです。0.3について「平均余命の伸び率を勘案して設定した一定率」と厚生労働省からは説明されています。平均余命の伸びは給付期間の長期化であり、年金財政にとってダメージです。その分、カット率に上乗せしようという趣旨でしょう。趣旨は全くその通りなのですが、平均余命は時間とともに変わります。よって、本来、右辺第2項は「一定率」ではなく、平均余命の変化に応じて変えられるべきです。定義式のように数値を固定してしまっては、平均余命の伸びによる給付増は、マクロ経済スライドの適用期間長期化で吸収しなければならず、将来世代に負担がかかることになります。
第2は、被保険者の減少率において、予測値ではなく実績値が用いられていることです。スライド調整率は、2015年度にはじめてマクロ経済スライドが機能を発揮して以降、平均0.3%ポイントと小幅な値でした(図表1)。ところが、今後、被保険者の減少幅拡大を受け、スライド調整率は大きくなっていくとの見通しが厚労省から示されています。スライド調整率は、今後10年で1%を超え、さらにその後10年で2%に迫る見通しとなっています。しかも、これは出生率1.36人を前提としています。今後の出生率の動向次第では、スライド調整率の幅はさらに拡大するでしょう。
そうであるならば、スライド調整率の設定に際し、実績ではなく見通しを用いれば、マクロ経済スライドをより早く終えることができます*2。こうした先取りについては、2004年改正に至る議論の過程において、採用はされなかったものの「将来見通し平均化法」として厚生労働省から提案されていました。それに対し、実績に基づく現行方法は「実績準拠法」と呼ばれていました*3。
将来見通し平均化法であれば、例えば、スライド調整期間を10年に設定し、それによって今後100年間を対象として収支が均衡するようにスライド調整率を計算することができます(2004年改正(5)マクロ経済スライドの終了年度の決め方 | 超党派年金制度改革データベースも参照)。現在のように、いつ終えるとも知れぬままダラダラとマクロ経済スライドを続けずに済む訳です。

同様のことは、平均余命の伸びについても言えます。スライド調整率の定義式の右辺第2項を可変とし、かつ、見通しを先取りすることで、平均余命の伸びによる給付増すなわち年金財政へのダメージを吸収することができます。2004年改正時と2024年財政検証時の平均寿命の見通しは、男4.9年、女2.7年それぞれ伸びています(図表2)。
このように、マクロ経済スライドについては、名目下限措置のほかにも(2004年改正(6)2004年改正時のシナリオ | 超党派年金制度改革データベース)、根本的に見直すべき点があります。(2026年3月31日)

*1 厚生労働省からは次のように説明されています。
「スライド調整率 = 公的年金の全被保険者数の減少率の実績(2~4年度前の3年平均)+平均余命の伸び率を勘案して設定した一定率(0.3%)」https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_05.html。被保険者の減少率は、実績値の公表される2年度前を含め3年平均が用いられています。なお、この説明の記述では、減少率は正の値をとることになりますが、通常、減少率とは負の値が想起されますので、本稿の本文でもそのようにしています。
*2 但し、名目下限措置があるもとでは、そうしたスライド調整率を差し引くことのできる賃金上昇率の伸び幅があることが前提となります。
*3 社会保障審議会年金部会「年金制度改正に関する意見」(2003年9月12日)https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/09/h0912-5a.html