超党派年金制度改革データベース

menu

PAGE TO TOP

年金制度の現状と課題【解説】

2004年改正(8)名目下限措置廃止の頓挫

2004年改正後、名目下限措置がネックとなり、マクロ経済スライドは機能しませんでした(2004年改正(6)2004年改正時のシナリオ | 超党派年金制度改革データベース (nenkindb.jp)参照)。名目下限措置の廃止に向け、厚生労働省がようやく重い腰を上げたのは2014年財政検証のタイミングです。2014 年6月3日に公表された財政検証のなかで、名目下限措置廃止の効果が明らかにされました。経済前提が高い方から低い方へAからHまで8ケースあるうちC、E、G、Hの4ケースについて、名目下限措置を存置した場合と廃止した場合における〈マクロ経済スライド終了年度〉と終了年度以降の〈所得代替率〉が試算されました(図表)。

いずれのケースにおいても、名目下限措置廃止の効果は明らかです。とりわけ低い経済前提の場合、効果は絶大です。ケースGでは、名目下限措置存置の場合、マクロ経済スライド終了年度は2072年度、モデル世帯の所得代替率は62.5%(2014年度)から39.5%まで低下しますが、廃止すれば、マクロ経済スライドを2050年度で終えることができ、所得代替率は低下しつつも44.5%を維持できます。

ケースHでは、マクロ経済スライド存置の場合、マクロ経済スライドを終えることができるどころか2051年度には積立金が枯渇してしまいます。廃止の場合、マクロ経済スライドを2054年度で終えることができ、所得代替率は低下しつつも41.9%を維持できます。なお、低い経済前提とはいっても、実質賃金上昇率はケースGで1%、ケースHで0.7%です。実質賃金の実績は、2022年から2025年まで4年連続で前年比マイナスとなっており、ケースHすらも下回っています*1。8番目のケースHであっても最悪シナリオとは言い切れません。

ところが、せっかくの厚労省の企ても頓挫します。2015年2月24日、自民党本部で開催された社会保障制度に関する特命委員会に、厚労省年金局から提出された年金改正案には次のように明記されていました*2。「マクロ経済スライドによる年金水準の調整について、現行の名目下限措置は維持する」。従来方針の大転換です。厚労省の本意ではないことは確実であり、では、誰による意思決定なのか真相は不明です。

委員会への出席者の1人である河野太郎衆議院議員からは異議が唱えられました。「2004年の年金改革は、保険料負担上限を決め、給付を調整し、それで年金財政がもつようにしましょうということだったと思います。ところが、デフレ下でマクロ経済スライドが機能していない。その結果、世代間の不公平は拡大し、年金財政は悪化している。それを目の当たりにしておいて、名目下限措置を維持しますということにはならないのだろうと思います。やはりわれわれは、名目下限措置廃止を世の中にきちんと説明しなければいけません。ですから、資料に書かれている名目下限措置を維持するみたいな話は、もういいかげんやめないと、われわれは次の世代に責任が持てないと思います」。

特命委員会の幹部たちは、こうした主張を正論と認めつつも受け入れませんでした。特命委員会が始まる前には、特命委員会の幹部と厚労省との間で既に結論が出ていたものと考えられます。結局、2016年3月、名目下限措置廃止が盛り込まれない年金改正法案が国会に提出され、同年12月に成立しました*3。2009年財政検証で名目下限措置廃止の機会を逃した過ちの繰り返しです。2015年度に初めて機能を発揮したマクロ経済スライドも、その後、2016、2017、2018、2021、2022年度の5年は、名目下限措置がネックとなり機能しませんでした。(2026年4月2日)

(参考)
西沢和彦「マクロ経済スライドの名目下限措置廃止を」2016 年2月26日 Research Focus No. 2015-051
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/8677.pdf

*1 厚生労働省「毎月勤労統計調査2025年分結果速報」1-5図、従業員5人以上。https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/25cp/dl/pdf25cp.pdf
*2 「公的年金制度改革の検討の方向性について(案)」
*3 手島望「平成28年年金改革法の参議院における議論-将来の年金水準の更なる低下の防止-」参議院調査室 立法と調査386号(2017年3月1日) https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2017pdf/20170301072.pdf


現状と課題一覧へ