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年金制度の現状と課題【解説】

2004年改正(3)マクロ経済スライドとは

マクロ経済スライドは2004年改正最大の柱です。とはいえ分かりやすくありません。それも当然です。国民のみならず国会議員にとって分かりにくいことこそ厚生労働省の狙いだったといえるからです。マクロ経済スライドは給付抑制の仕組みです。給付抑制など誰からも歓迎されません。2004年改正時、そうした実態が国民のみならず国会議員に<正確に>理解されれば、法案は修正あるいは廃案に追い込まれたかもしれません。すると、年金財政の維持は困難になり、国民とりわけ将来世代が不利益を蒙(こうむ)ります。マクロ経済スライドという分かりにくい仕組みが採られた背景には、そうした事態を避けるための厚労省の知恵があったと捉えるべきでしょう。

では、マクロ経済スライドとはどのような仕組みでしょうか。前段として、新規裁定年金に着目し、年金額改定の原則についておさらいしておきます(図表1)。新規裁定年金とは、新たにもらい始める年金であり、賃金上昇率によって毎年度改定されるのが原則です。次のような数値例を考えます。2004年度の新規裁定年金が24万円、賃金が40万円とすると、給付水準を表す所得代替率は24÷40で60%となります(図表1)。賃金上昇率を2.1%と仮定すると、2005年度の賃金は40万円×1.021で40.8万円、新規裁定年金も24×1.021で24.5万円、所得代替率は24.5÷40.8でやはり60%となります。以降も、年金額は賃金上昇率で改定されていくので、所得代替率60%が維持されます。

マクロ経済スライドでは、こうした原則をいったん棚上げし、年金額は、賃金上昇率からスライド調整率を差し引いた率での改定にとどめられます。スライド調整率については改めて説明しますが、0.9%と仮定すると、2005年度の新規裁定年金は、2004年度の年金額24万円に(1.021-0.009)を掛けて24.3万円になります(図表2)。金額こそ前年度より増えていますが、所得代替率は59.5%に低下します。これを毎年度繰り返していくと、例えば2024年度の所得代替率は50.3%となります。2004年度にくらべおおむね2割の給付水準低下です。年金受給者にとっては厳しいですが、年金財政にとっては支出が減りプラスです。

マクロ経済スライドは、既裁定年金すなわち既にもらい始めている年金にも適用されます。例えば、2004年度に24万円の年金をもらい始めた人の2005年度の年金額は原則通りであれば24万円×1.01=24万2,400円ですが(図表1)、マクロ経済スライドのもとでは24万円×(1.01-0.09)=24万240円にしかなりません(図表2)。年金額は240円増えてはいますが、これだけでは物価上昇に追いつけません。年金の購買力の低下です。やはり年金受給者にとっては厳しいのですが、年金財政にとってはプラスです。

このように前年度から年金額自体は増えるものの、毎年度繰り返されることによって家計に対し真綿で首を絞めるかのように効いてくるのがマクロ経済スライドです。マクロ経済スライドは、年金額改定の原則を<いったん棚上げする>仕組みであるとお話ししました。では、その棚上げ期間はどのように決められるのでしょうか。次回、話を続けます。

(参照)
厚生年金保険(給付2)年金額改定の原則 | 超党派年金制度改革データベース
第15回社会保障審議会年金部会資料
第19回 社会保障審議会年金部会資料
厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」令和8年1月 23 日
https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001639615.pdf


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