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年金制度の現状と課題【解説】

130万円の壁(2)被扶養者の認定基準の推移

国が被扶養者の認定基準を示すようになった起源は、1977年4月の通知「収入がある者についての被扶養者の認定について」にみることができます*1。厚生省保険局長と社会保険庁医療保険部長の連名で道府県知事あてに発出されています。その通知を読むと、当時、被扶養者の認定基準は健康保険の保険者ごとに差異があり*2、それがどうも問題があるということで、国が「70万円」という金額を示したようです。

その後、認定基準は賃金水準の上昇に合わせて段階的に引き上げられ、1993年度に130万円となって以降据え置かれ、現在に至っています(図表)。図表の青い線が、1977年度を70として指数化した賃金水準の推移です。この間、1986年には第3号被保険者の仕組みが導入され、認定基準は、健康保険制度のみならず年金制度においても参照されるようになりました。当時の年金改正の解説書に次のような記述があります(吉原(1987))*3。「勤めにでなくても何らかの収入があり、それが年収90万円をこえれば夫の被扶養者でなくなり、第1号被保険者として保険料を自ら納めなければならない」。すなわち、法律ではなく通知のまま国民の行動をより強く制約するようになったことになります。

賃金水準は、1990年代末から約20年間、ほぼ横ばいで推移してきましたが、2020年代に入り再び上昇傾向にあります(図表)。被扶養者の認定基準を据え置いたままでは、就労調整を招き、人手不足に拍車がかかってしまいます。こうした状況を受け、認定基準に関し、2025年10月に厚労省の課長から通知が発出されました*4。その内容は、当座の人手不足対応と、他方で高まる第3号被保険者の仕組み廃止を求める声とのジレンマのなかでの苦肉の策のように見受けられます。

通知で示されたのは、認定基準そのものの引き上げではなく、いわば解釈の拡大です。130万円という認定基準は、雇用契約を結んだ時点で見込まれる年収なのであって、その時点で予定されていなかった残業代がのちのち発生し、結果として130万円を超えても構いません――これが大まかな内容といえます。通知には次のように「整理」という言葉が用いられており、厚労省としては「変更」したつもりはないのかもしれません。「今般、労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の『年間収入』の取扱いを下記のとおり整理した」。

この通知は、言うまでもなく応急措置に過ぎず、根本的な議論が必要です。そもそも法律ではなく通知での対応が長年続いてきたことも、立法府と行政府それぞれの本来的な役割に照らした検証が欠かせません。(2026年6月22日)

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*1 「収入がある者についての被扶養者の認定について(昭和52年4月6日)(保発第九号・庁保発第九号)各道府県知事あて厚生省保険局長・社会保険庁医療保険部長通知」の冒頭に次のようにあります。
「健康保険法第一条第二項各号に規定する被扶養者の認定要件のうち『主トシテ其ノ被保険者ニ依リ生計ヲ維持スルモノ』に該当するか否かの判定は、専らその者の収入及び被保険者との関連における生活の実態を勘案して、保険者が行う取扱いとしてきたところであるが、保険者により、場合によっては、その判定に差異が見受けられるという問題も生じているので、今後、左記要領を参考として被扶養者の認定を行われたい。なお、貴管下健康保険組合に対しては、この取扱要領の周知方につき、ご配意願いたい」。
*2 健康保険の保険者ごとに、被扶養者の認定基準に差があること自体は、保険者とりわけ健康保険組合が事業主と従業員によって自発的に組成されていることを踏まえれば、正当性が認められます。
*3 吉原健二『新年金法 61年改革解説と資料』1987年 全国社会保険協会連合会
*4 「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」。2025年10月1日、全国健康保険協会理事長・健康保険組合理事長・日本年金機構理事長あてに、厚生労働省保険局保険課長・厚生労働省年金局事業管理課長の連名で出されています。


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