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年金制度の現状と課題【解説】

130万円の壁(12)議論のゆくえ

2023年から2024年にかけて、労使双方から「年収の壁」に関する提言が相次ぎました。

2023年10月、経済同友会「いわゆる『年収の壁』問題への対応について―支援強化パッケージの評価と社会保険制度の中長期的な改革の方向性―」*1

2024年10月、連合「働き方などに中立的な社会保険制度(全被用者への被用者保険の完全適用、第3号被保険者制度廃止)に対する連合の考え方」

同年11月、日本商工会議所・東京商工会議所「年金制度改革に関する提言」

同年12月、経済同友会「現役世代の働く意欲を高め、将来の安心に備える年金制度の構築 ~多様性を包摂し、公平・中立・簡素な制度へ~」*2

いずれも、第3号被保険者の仕組みの廃止を明確に求めています。連合は、第3号の大半が女性であるという実態を重く見ており、第3号という仕組みが女性のキャリア形成を阻害し、男女間賃金格差を生む原因の一つと考えられると結論づけています。第3号廃止に必要な諸前提にも目配せがなされ、就労環境整備に加え、本人の疾病や育児・介護などで就労を抑制せざるを得ない人に対する仕事と治療の両立支援、子ども・子育て支援、および、介護サービスの充実などが求められています。日商・東商も、「むしろ本制度が、主婦等被扶養者を非就業・低収入就業に固定化させる誘因なっているとの指摘もある」とし、同様の問題意識を示しています。

日商・東商および経済同友会は、「年収の壁」問題の根底にある第3号の将来的な廃止について、早急に国民の合意を得て時期を明示すべきであるとし、政府に対し検討ではなく決断を求めています。改正案が最も具体的なのは経済同友会です。「簡素な制度で多様性を包摂すべきであり、雇用や働き方を歪めない年金制度への抜本改革が必要である」とし、従来のような弥縫策の積み重ねを戒め、長期的には報酬比例年金と税財源による最低保障の基礎年金の組み合わせによる2階建ての年金制度を目指すべきとしています。

こうした提言に押されてか、2025年6月に成立した年金改正法の附則に、第3号被保険者のあり方に関する検討規定が盛り込まれています。「政府は、国民年金第三号被保険者の在り方について国民的な議論が必要であるという認識の下、その議論に資するような国民年金第三号被保険者の実情に関する調査研究を行い、その在り方について検討を行うものとすること。(附則第二条第四項関係)」*3。改正法成立から1年が経過しており、今後、何らかの検討が始まるものとみられます。
とはいえ、労使の提言と厚生労働省との間には相当な隔たりがあります。そもそも厚労省は、第3号の仕組みに問題はないというスタンスを取っているためです。厚労省が繰り返し使う「公的年金の負担と給付の構造(世帯類型との関係)」という資料に、それは端的に表れています(後掲)*4。そこでは、夫のみ就労、夫婦共働き、単身の3世帯類型の賃金と年金給付が比較されており、「賃金水準(1人あたり)が同じであれば、どの世帯類型でも一人当たりの年金額は同じ」と強調されています。要は、夫のみ就労世帯と共働き世帯・単身世帯との間で給付と負担に不公平はないという主張です。

(資料)第7回社会保障審議会年金部会2023年9月21日資料1
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001174760.pdf

もちろん、この資料と付された説明が負担と給付における問題の核心を外していることは明らかです。わが国が、社会保険料を負担してはじめて給付が受けられる社会保険方式を掲げながら、負担せずに給付が受けられる第3号という例外が設けられ、しかも、その費用が共働き世帯と単身世帯にも求められているーーこれこそが問題の核心です。そもそも、夫のみ就労世帯の賃金は40万円ではなく、夫婦共働き世帯、単身世帯と同じ20万円にしなければ比較になりません。厚労省の今後の議論が、真に労使の提言を受けたものとなるか、ゆくすえが注目されます。(2026年8月3日)

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*1 いわゆる『年収の壁』問題への対応について ―支援強化パッケージの評価と社会保険制度の中長期的な改革の方向性―|経済同友会
*2 連合 https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/kurashi/nenkinkaikaku/data/activity_kurashi_insurance2024_doc01.pdf
日本商工会議所・東京商工会議所 https://www.jcci.or.jp/news/news/2024/1121210000.html
経済同友会 20241202e.pdf
*3 https://www.mhlw.go.jp/content/001489180.pdf
*4 例えば、次の厚労省研究会でも同様の資料が用いられています。「女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会報告書~女性自身の貢献がみのる年金制度~」2011年 https://www.mhlw.go.jp/shingi/0112/s1214-3.html


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