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年金制度の現状と課題【解説】

130万円の壁(7)キャリアアップ助成金の利用

2016年10月、「年収の壁」による就労調整への対策として、キャリアアップ助成金を利用する仕組みが導入されました。助成金は雇用保険料で賄われており、江戸の仇を長崎で討つかのような構図です。暫定措置であったはずのこの仕組みは、2023年10月以降むしろ拡充され、現在に至っています。

そもそもキャリアアップ助成金とは何でしょうか。私たちは雇用保険料を負担しています。料率は、労働者、事業主とも失業等給付・育児休業給付分が0.5%であり、事業主には雇用保険二事業分0.35%が加わります*1。保険料は、計約4兆円(2024年度)*2、労働保険特別会計で経理されています。雇用保険二事業は、健康管理に例えれば予防といえましょう。非正規雇用の正規雇用への転換、労働者のスキル向上などを通じて雇用が安定すれば、労働者と事業主双方にとって好ましいのはもちろん、政府にとっても失業給付の抑制が期待できます。二事業はそうした事業主の取り組みに対するバックアップであり、キャリアアップ助成金はそのなかの1つです。

助成は事業主が対象です。事業主は、助成要件に沿って計画書を作成し、国に提出します。そこには、対象従業員に関し、正規雇用への転換、賃金アップをはじめとした処遇改善などに関する計画が盛り込まれます。事業主は、実際の取り組みを経て、国に支給申請を行います。キャリアアップ助成金には、例えば、従業員の正社員化を進めたいと考える事業主に対しては「正社員化コース」を適用するといった具合に、「コース」と呼ばれるいくつかバリエーションが設けられています。

2016年10月、キャリアアップ助成金に、2019年度までの暫定措置として「短時間労働者の週所定労働時間延長コース」が新たに設けられました。厚生年金保険の対象者拡大を盛り込んだ年金法改正が背景です*3。江戸の仇を長崎で討つ仕組みの始まりです。具体的には、週所定労働時間を25時間未満から30時間以上に延長し、社会保険を適用した場合、1人当たり10万円(大企業は7.5万円)が助成されるという内容でした*4。とはいえ、同コース*5は、その後も延長されつつ開店休業に近い状態だったようです。2017年度から2020年度までの厚労省の概算要求額をみると、それぞれ24億円、2億円、3億円、7億円しかありません。所管する厚労省雇用環境・均等局は、同コースのフェードアウトを期待していたのかも知れません。

ところが、その後、キャリアアップ助成金の利用が拡充されます。まず、2023年10月、「社会保険適用時処遇改善コース」が設けられました。助成額は労働者1人につき最大50万円です*6。背景は「年収の壁・支援強化パッケージ」です。岸田文雄首相がパッケージの週内決定を自ら公表したのが9月25日であり、その翌日の厚生労働省の労働政策審議会*7では、労使から厳しい言葉がでました。「2025年の次期年金制度改革までの一時的な措置であったとしても、社会保険料を雇用保険料で充当するということは極めて理解し難い状況です」*8。「日商としてかねてから要望しておりますとおり、税、社会保険制度の抜本的な見直しによってこの壁の問題を解消する。ここが本筋であるということはまずしっかり申し上げておきたいと思います」*9。

次いで、2025年7月、「短時間労働者労働時間延長支援コース」が設けられました。これは社会保険適用時処遇改善コースの要件や助成額が見直されたもので、助成額は労働者1人あたり最大75万円です*10。背景は2025年2月25日の自民・公明・維新の三党合意です*11。翌月28日に開催された労働政策審議会*12における労使の発言からはしびれを切らした様子が伝わります。「今回のような『当面の対応』を一体いつまで続けるおつもりなのかお示しいただきたいと思いますし、本来は社会保険制度として解決すべき課題でありますので、第3号被保険者の見直しも含め、社会保障審議会年金部会において審議すべきと考えます」*13。「最後に、本来、これは社会保障制度の問題だと考えております。公的年金の第3号被保険者制度の見直しを含めて、働き方に中立的な労働参加促進型の制度確立を着実に進めていただきたいと思います」*14。もっともな指摘であり、それが繰り返される現状は重く受け止められなければなりません。(2026年7月8日)

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*1 令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内https://www.mhlw.go.jp/content/001692566.pdf
*2 令和6年度決算(労働保険特別会計徴収勘定)https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/kaiji/roudou-kessan24-3.html
*3 「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成28年法律第114号)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284.html
*4 第38回社会保障審議会年金部会(2016年3月14日)参考資料P4 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000116220.pdf
*5 2024年3月廃止。
*6 社会保険適用時処遇改善コースのチラシ https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/001169366.pdf
*7 第61回労働政策審議会雇用環境・均等分科会
*8 井上久美枝委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局総合局長)
*9 大下英和委員(日本商工会議所産業政策第二部長)
*10 キャリアアップ助成金短時間労働者労働時間延長支援コースのパンフレット https://www.mhlw.go.jp/content/11910500/001684102.pdf
*11 https://o-ishin.jp/news/2025/images/1818_001.pdf
*12 第81回労働政策審議会雇用環境・均等分科会
*13 小原成朗委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)
*14 布山祐子委員(日本経済団体連合会労働法制本部参事)


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