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年金制度の現状と課題【解説】

130万円の壁(6)第3号不整合記録問題

2011年初、第3号不整合記録問題が注目を集めました。不整合とは、専業主婦に関する、年金制度に即した実態と日本年金機構における記録との間のズレです。例えば、夫がサラリーマン、妻が専業主婦、2人とも60歳未満とします。その夫が脱サラして個人事業主になる、あるいは、転職のため会社を退職すると、年金制度上、妻は第3号被保険者から第1号被保険者になります。それが実態です。ところが、日本年金機構の記録においては、妻は第3号のままであり、実態と記録にズレが生じる場合があります――これが不整合記録です。原因は、妻から日本年金機構に対して第3号から第1号への種別変更の届出がなされなかったためです。

実態と記録がズレている人は、一人や二人ではありませんでした。2011年時点で97.4万人、1986年の第3号導入以降では117.6万人に及ぶとの推計が示されました*1。2010年度末の第3号被保険者約1,000万人と比較しても膨大な規模です。第3号という制度そのものの是非はいったん脇におき、当時の被保険者側の手続きや日本年金機構側の管理といった執行面に焦点を絞っても、問題点は主に2つあります。

1点目は、第1号への種別変更の届出もれは十分に起こり得ることであるにもかかわらず、備えが手薄であったことです。妻にとって、夫の就業形態が変化したとしても、自らの日々の家事・育児・親の介護は何一つ変わりません。それにもかかわらず、妻が年金種別変更を余儀なくされ、保険料納付義務が発生するのは万人が自然に想起できるものではないでしょう。日本年金機構は、夫の種別変更から判断して届出が必要とおぼしき妻には、勧奨状を送っていたようですが、読んでもらえる保証はありません。

2点目は、ズレた記録に基づいて、しかも、法ではなく運用すなわち行政の判断によって給付がなされたことです。給付は、当初は年金事務所ごとに、のちに厚労省課長の通知に基づき組織として行われました*2。「運用3号問題」です。種別変更の届出もれがあったとしても、本来、実態が第1号であれば、遡及して国民年金保険料を求めるか、あるいは、基礎年金給付を減額するかしなければなりません。それをせず、実態と異なる記録に基づいて給付をするのは、まじめに保険料を払っている被保険者への背信です。しかも、それが、立法を経ず、行政の判断でなされました。

1点目については、現在、運用面の改善がなされています。とはいえ、妻が自らには何の変化がなくとも、夫の就業形態が変わることによって、年金の種別変更を迫られるという本質はそのままです。2点目については、直近では被扶養認定基準130万円の解釈が厚労省課長の通知で変更されたように*3、今も根本は改まっていないようです。

以上、第3号という制度の是非はいったん脇におきましたが、不整合記録問題を突き詰めると、制度の是非に行きつきます。問題の表面化を受け、2011年4月、社会保障審議会に特別部会が設けられました。その報告書の締めくくりが目をひきます。「今般の問題は、第3号被保険者制度の運用に際して生じた問題ではあるが、同制度については、これまでも様々な問題点が指摘されているところであり、今後、年金制度改革について検討していく中では、第3号被保険者制度のあり方についても、別途、議論を深めていくことを強く求めたい」。(2026年7月6日)

(参考文献)
社会保障審議会第3号被保険者不整合記録問題対策特別部会「報告書」(2011年5月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126728.html

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*1 厚生労働省第2回社会保障審議会第3号被保険者不整合記録問題対策特別部会(2011年4月11日)資料3 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000018mel-att/2r98520000018mjm.pdf
*2 厚生労働省第1回社会保障審議会第3号被保険者不整合記録問題対策特別部会(2011年4月5日)「第3号被保険者の記録不整合問題への対応に関する経緯等について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000017wvy-att/2r98520000017xok.pdf
*3 130万円の壁(2)被扶養者の認定基準の推移 | 超党派年金制度改革データベース


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