経済同友会は、2024年12月、提言書「現役世代の働く意欲を高め、将来の安心に備える年金制度の構築」を発表しました。今回、経済同友会の財政・金融・社会保障委員会の深澤祐二委員長(東日本旅客鉄道取締役会長)にお願いし、本会呼び掛け人の伊東信久衆議院議員(日本維新の会)と対談していただきました。その概要をご報告します。
深澤)経済同友会の年金制度改革の提言は、2024年7月の年金財政検証を受けて検討を開始し、年金制度改正法案が審議される2025年の通常国会に向け、2024年12月公表しました。
生産年齢人口が減少するなかで、年金財政検証の推計は楽観的であり、基礎年金の低下による制度の信頼性・持続性の懸念が払拭できていませんでした。また、社会保障費負担の増加に対する有効な対処策が示されておらず、現役世代の可処分所得を非常に圧迫しているという課題認識がありました。
そうした認識のもと「年金制度改革の4つの視点」を示しました。
- 「サラリーマンと専業主婦」という標準世帯を前提とせず、多様な家族形態を踏まえた「モデル世帯」・働きたい人が働きやすい制度
- 現役世代・将来世代の負担とならない年金財政運営・応能負担の徹底
- 税と社会保険料の一体的な負担構造・基礎年金と公的扶助の関係整理
- 多様性を包摂する「公平・中立・簡素」な制度
経済同友会は2段階の年金制度改革を提言しています。
第1段階(5年間)で第3号被保険者制度を廃止します。第3号被保険者制度の段階的廃止とその時期をあらかじめ明示し、第2号被保険者への速やかな移行を促します。移行にあたっては5年間の猶予期間を設け、第3号被保険者への新たな加入・適用は行わないこととします。それにより「年収の壁」による労働供給の減少を防ぎます。同時にマイナンバーを活用して複数の事業所で働く人も被用者保険に入りやすくして、第1号被保険者の第2号被保険者への移行を促進します。子育てや障がい等により就労困難な場合には保険料の減免措置を講じます。
第2段階の改革では、税と社会保障の一体改革に向けた基礎年金改革を検討します。国民年金保険料と厚生年金保険料に含まれる基礎年金部分の徴収を廃止します。自営業者も含め応能負担を強化し、現行の2分の1の税負担から段階的に全額税による基礎年金の仕組みへ移行します。適用拡大を通じてシンプルな二階建てとなります。なお、マクロで見れば国民負担率は変わりません。
高額所得者については、報酬比例年金の額に応じて基礎年金を減額します(クローバック)。低年金者には所得審査を条件に一定額の補足給付を行います。
また政府の検討案に対して経済同友会は以下の見解を示しました。
1.働き方の中立性確保
- 被用者保険の適用拡大:企業規模要件の撤廃、非適用業種の解消、常時5人未満を使用する個人事業所への適用拡大。賃金要件については、国民年金保険料との不公平を拡大させないよう厚生年金保険料の下限の水準に留意。
- 複数事業勤務者・フリーランス等への適用:被用者保険資格取得届を廃止し、マイナンバー等の活用により日本年金機構が収入等を名寄せ・合算できる仕組みの導入。フリーランス・ギグワーカーへの適用範囲の拡大。
- 年収の壁対策:中期的な抜本改革の方向性(年収の壁・支援強化パッケージの期限延長と第3号被保険者制度の廃止)の明示
- 在職老齢年金制度の段階的廃止
2.応能負担の強化
- 標準報酬月額の段階的な上限見直し
- 年金支給開始年齢の段階的引き上げ
3.将来の基礎年金給付水準の確保
- マクロ経済スライドの調整期間一致・名目下限措置の廃止
- 基礎年金の拠出期間延長
これらの年金制度改革を進めるため、「令和時代における税と社会保障の一体改革」の議論・検討を行う場を設けることも提言しました。
経済同友会の提言の一部はすでに年金制度改正法に反映されています。被用者保険の適用拡大は一部実現しました。年収の壁対策では「106万円の壁」は解消されました。在職老齢年金制度の段階的廃止に関しては、基準額が50万円から62万円に引き上げられ、一部実現しました。同じく標準報酬月額の上限についても、上限額が65万円から75万円に引き上げられ、一部実現しました。
伊東)私は日本維新の会の政調副会長と厚生労働部会長として年金政策に関わってきましたが、経済同友会の提言に一致しているところが多いです。このところ食品の消費税を0%にするか1%にするかといった議論ばかりで、税と社会保障の一体改革の議論はあまり目立っていません。ただ、第3号被保険者の廃止に関しては自民党と日本維新の会の社会保障制度改革協議でも経済同友会がめざす方向性に近い議論をしています。超党派年金制度改革研究会でも第3号被保険者の問題は議論してきました。なお一定のボリュームを占める専業主婦の存在感は大きく反対も多いのですが、少しずつ理解は進んでいると思います。家族観や労働観も変わり共働き世帯が当たり前になりつつあるなかで、丁寧に説明しながら第3号被保険者の廃止を段階的に進めるしかないと思います。
深澤)データを見ても年収の壁のため年収100万円前後で働き控えが起きており、労働力不足の原因になっています。第3号被保険者制度ができた当時はよい制度だったと思います。しかし、時代背景が変わり家族形態や働き方が変化し、令和の時代に合わなくなっています。
伊東)複数事業所に勤務する人の問題もマイナンバーを活用すれば捕捉できるので、解決可能だと思います。マイナンバーと資産の紐づけ等も含め重要だと思います。
深澤)社会保障国民会議の有識者会議でも議論していますが、マイナンバーの活用は重要です。地方自治体の事務的な負担が大きいため、マイナンバーで効率化できるところはするべきです。
伊東)ご指摘の通り年金制度への信頼低下は問題です。基礎年金を一階とした二階建てといっても理解できている人は少ないでしょう。マクロ経済スライドもわかりにくいため、整理する必要があります。基礎年金が不安定なのも問題です。
深澤)生活保護受給者の半分以上は高齢者です。基礎年金が機能していない証拠です。複雑化してわかりにくい制度もシンプルにする必要があります。
伊東)制度をシンプルにして基礎年金をわかりやすくする必要がありますが、基礎年金の充実には財源論が重要です。政治家は財源を語る必要があります。税と社会保障の一体改革を政治主導で進めていかなければなりません。
深澤)これまで増税が難しいから社会保険料負担を増やすことで対応してきた面があります。
伊東)私は昭和39年に生まれた昭和時代モデルの人間ですが、令和の少子高齢化の時代にあってもいまだに昭和時代モデルの社会保障制度が残っている感じがします。子育て支援のために第3号被保険者制度が必要だと主張する人もいますが、第3号被保険者制度を残しても昭和時代の出生率には戻りません。時代の変化に合わせて年金制度も変えなくてはいけません。
深澤)第1号被保険者で保険料を払っている人は半分くらいです。免除や猶予を受けている人が多いです。第3号被保険者廃止で生活に困る人は、同様の免除や猶予の制度を設ければよいと思います。
やはり基礎年金のあり方は変えなくてはいけません。その際に方向性を示すことが大切です。
伊東)財源論も考える必要がありますね。
深澤)いわゆる「翁カーブ」が示す通り、日本の社会保障制度は、他の先進国と比べて、社会保険料の負担が大きく、所得再分配効果が低く、低所得層への支援が少ないことが特色です。この状況は変える必要があり、そのためには増税も必要になります。
*注:「翁カーブ」とは日本総研の翁百合シニアフェローが作成した「共働き子育て世帯の年収と負担率の構造(日・OECD比較、2021年)」の図に示された曲線を意味します。
伊東)私たちも社会保障制度改革を考えるにあたり、応能負担の強化や高齢者の定義の見直しが必要だと思っています。働ける人には働いてもらえる制度が望ましいと思います。
深澤)高齢者の定義に関していまは65歳で高齢者という時代でもないと思います。働ける人には働いてもらったほうがいいと思います。働くことは生きがいでもあります。
伊東)日本人は働くのが好きな人が多いと思います。それに働き手は必要とされています。高齢者の定義の見直しと共に雇用の流動化も必要です。終身雇用制を前提としない雇用のあり方も考えていくことが大切だと思います。
深澤)働き手不足はとりわけ地方で深刻です。
伊東)年金の賦課方式から積み立て方式への移行についてはどうお考えですか?
深澤)今の制度を前提とすると完全な積み立て方式への移行は難しいです。経済同友会は、基礎年金は税、報酬比例部分は社会保険料という年金制度を提案していますが、現行制度を前提とした改革案です。ベースとなる基礎年金部分は国がしっかり整えることが望ましいと考えます。それが社会の安寧につながると思います。
伊東)現役世代の可処分所得を増やすことが大切です。NISA等の積み立ても組み合わせて老後の生活設計を考える必要があります。
年金改革の議論は、財源論になると難しくなります。どの税を増税するかという議論は批判されやすく、非常に評判が悪いです。
深澤)たとえばマクロ経済スライドはわかりにくいです。複雑な制度は理解されません。制度をシンプルにすると問題点がわかりやすくなります。医療制度は予想が難しいのですが、年金制度は将来予想がそのまま現実になる可能性が高いです。年金制度は逃げ場がなく、このままではいけないのは明らかです。
伊東)経済同友会の提言にあるように「公平・中立・簡素」の原則は重要だし、「多様性を包摂」という点も大切だと思います。我々もそういった方向を目指して年金制度改革の議論を進めていきたいと思います。
深澤)少子高齢化は日本だけの問題ではありません。他の先進国も少子高齢化の適応した年金制度を見直してきました。日本でも年金制度の改革を進めていく必要があります。