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コラム

大林 尚

第2章 砂上の皆年金制度 ⑥ 公務員年金、煮え切らぬ官尊民卑の解消(その2)

第1次安倍晋三政権の発足から間もない2006年秋、公務員などの共済年金と民間会社員などの厚生年金を統合する議論を政府・与党が再スタートさせた。

構造改革を旗印にかかげていた小泉純一郎首相の後を襲った安倍首相は清新さを押し出し、改革路線を引き継ごうとした。メディア各社の世論調査によると、政権発足時の支持率は60%台から70%近くと、きわめて高かった。その人気をもってすれば、年金の官尊民卑を解消するのはたやすいことのように思われた。だが事はそう簡単には運ばなかった。

国家公務員の共済年金に上乗せ支給している「職域加算」は、民間企業の退職一時金に相当する退職手当と合算しても企業年金と退職一時金の合計よりも少ないという調査結果を、人事院が唐突に出してきたのだ。

年金統合には職域加算の廃止が大前提になるが、それに待ったをかける内容だった。人事院の谷公士総裁は、政府方針に沿って職域加算を廃止するなら民間との差を埋めるべく職域加算に代わる制度が必要だと塩崎恭久官房長官に訴えた。

この調査は問題をはらんでいた。その結果は公務員の退職金と職域加算221万5000円の合計は平均2960万円程度で、民間の退職一時金と企業年金の合計2980万円程度よりも20万円あまり少ないというものだ。問題は3点に集約できる。

第一に、職域加算は公務員本人も掛け金の一部を負担するが、人事院は本人が払った分を除いた国の負担分だけを計上していた。本人負担を加えた実際の職域加算は221万5000円よりも大幅に高い。余談だが、国の負担と言えばお金が天から降ってくるような聞こえのよさがあるが、私たち納税者の税負担である。

第二に、天下りをした元公務員が天下り先の財団法人、独立行政法人や民間企業などでもらう多額の退職金を除いて計算していた。

第三に、企業年金は母体企業の経営が悪化すれば受給額の減額や年金の解散がありえるが、職域加算にそのリスクはない。また職域加算は終身年金だが、企業年金の大半は10年の有期年金だ。人事院は終身年金と有期年金の平均額を出したとみられるが、実際にこの額をもらっている人は少なく、企業年金の平均像からはほど遠かった。

お手盛り感満載の調査結果の妥当性には疑問を抱かざるを得ない。谷総裁の意向がとおれば、職域加算を廃止しても官尊民卑が残る恐れが強かった。調査結果を問題視する国会議員は自民党内にもいた。官僚のお手盛りをやめさせるのは、まさに政治家の役割である。

人事院は2026年1月から人事院は東京・霞が関から
虎ノ門の高層ビルに移転した(日経電子版から)

人事院は中央官庁の一つだ。労働組合がない国家公務員の給与の引き上げ幅を内閣に勧告したり、採用試験を実施したりする中立的な役所とされている。

最高責任者である3人の人事官は特別職の国家公務員として国会同意を経て天皇の認証を受け就任する。このうち1人が人事院総裁に就く。総裁には閣僚並みの、2人の人事官には各省政務官と同額の給与が払われる。人事官の身分は強く保障されており、国会が訴追して最高裁による弾劾裁判を経なければ罷免されない。これまでに人事官の弾劾裁判は例がない。

谷総裁は旧郵政省の事務次官経験者である。ウィキペディアで経歴をみると、郵政次官退官後はマルチメディア振興センター理事長、郵便貯金振興会理事長、日本データ通信協会理事長、そしてJSATの会長――と、同省傘下の財団法人や企業のトップを渡り歩いたのちに人事官になった。

華麗なる天下り人生が官尊民卑年金の温存を画策したことに影響をおよぼした可能性はないのか。そんな人物が人事院総裁をつとめることへの妥当性はあったのか。人事官に与えられたきわめて強固な身分保障に胡坐をかき、官僚に都合のよい調査結果を導いた疑惑はなかったのか。

結局は被用者年金の一元化といいつつも、3つの共済組合は残したまま厚生年金保険勘定に拠出金を出すという複雑な仕組みになった。これでは、真の一元化の名には値しまい。

官か民かを問わず、雇われて働く給与所得者なら同じしくみの年金制度に入り、公正で公平な年金をもらうように制度を再構築するのが皆年金達成への必要条件である。

年金制度改革は官の既得権との闘いでもあったが、その壁は厚かった。


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