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コラム

大林 尚

第2章 砂上の皆年金制度 ④ 議員年金に胡坐をかいた政治家たち

年金問題を我がこととは考えない政治家が少なくない背景の一つに、議員年金という特権があった。

正式名を「国会議員互助年金」という。国民年金の保険料を未納していた政治家が多用した言い訳の一つに「議員年金の掛け金に国民年金のぶんもふくまれていると思っていた」がある。

言わずもがなだが、議員年金は国民年金や厚生年金のような公的年金ではない。衆参両院の議員で組織するいわば互助会だ。ふつうの互助会と違うのは、10年間加入すれば月額34万円もの給付が保証される超優遇の年金だった点だ。だが、こんな手厚い給付が天から降って来るわけはない。給付額のおよそ3分2相当額を、私たち納税者が払う税負担を充てていたのだ。

そんな基本的なしくみも知らずに、国民年金の保険料を払っていた気になっていた国会議員は、制度に対する無知・無能をさらけ出したようなものだ。

国会法は「議員は、別に定めるところにより、退職金を受けることができる。」(36条)とさだめる。議員年金はこの規定を根拠に、引退議員への退職金を年金として分割支給していた。

国会議員たちもさすがにまずいと思ったのであろう。2004年6月の年金制度改革法の成立からほどなくして、議員年金を見直すべきだという世論に応えざるを得なくなり、衆参両院の議長が設けた「国会議員の互助年金等に関する調査会」(座長・中島忠能元人事院総裁)で具体策を議論することになった。両院議長が共通の諮問機関を設置したのは、憲政史上初めてだった。

ただし議員年金の改革を論ずる前にすべきは、すべての衆参議員がきちんと国民年金に入り、毎月せっせと保険料を払うことを徹底させるとともに、政治家が我がこととして真の国民皆年金を達成するのに必要な制度改革に取り組むことである。

調査会は半年間のスピード審議を経て報告書をまとめ、両院議長に提出した。そのポイントは、給付費に占める税財源(国庫負担)の割合を4年程度かけて50%に下げる一方、議員が歳費や期末手当から払う納付金(保険料)を引き上げ、受給要件を議員在職10年から12年に延ばすというものだった。

納税者の批判が強い税金の投入を減らし、議員本人の負担をいくぶん増やす内容だが、小泉純一郎首相や野党民主党が求めていた「議員年金の廃止」には踏み込まずじまいだった。背景には、議員の職責と身分は特別なので国民とは別に相当額の年金を保障する制度が必要だ、という特権意識があった。高コストの議員年金を「民主主義のコスト」として割り切るよう納税者に求めたともいえる。

調査会報告書の内容を報じる2005年1月20日付の日本経済新聞夕刊1面

お手盛りの報告書だった。自民党内では当選を重ねたベテラン議員に存続派が多かったが、若手のあいだには議員年金を廃止して退職金に切り替えるよう求める意見書をまとめたグループもあった。

筆者はこの調査会に呼ばれて意見を聴かれたので「日本経済新聞の社論として廃止すべきだ」という趣旨を述べた。ちなみに同じ日に呼ばれていた経団連は、事務局の幹部が存続を前提に話していた。

海外にも似た年金制度がある、廃止すれば国会議員のなり手が減るなど、特権年金の存続を正当化する理由はさまざまに語られていた。だが議員一人ひとりが掛け金を積み立てる方式に変えて税金の投入はやめるなど、納税者に迷惑をかけない選択肢はあったはずである。

足元では、高市早苗内閣に閣外協力する日本維新の会の地方議会議員が、議員報酬をもとに保険料を算定する国民健康保険への加入から逃れるために、一般社団法人の理事になって社会保険に入り、保険料の支払いを軽くすませていた不祥事が明るみに出た。

このやり方だと、議員本人の被扶養者も保険料を払う必要がなくなる。年収が一定以下の配偶者は国民年金の第3号被保険者として年金保険料も逃れられる。未納3兄弟よりもずっとたちが悪い納税者への裏切りだ。改革政党の名が泣く。

国会か地方議会かを問わず、政治家の年金未納問題に端を発した議員年金の改廃論議からみえてきたのは、国会議員という「まな板の上の鯉」が包丁を握り、自らが享受している特権を剥奪する真の改革は、とうてい成しえないという不変の真理であった。


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