ここまで、31回にわたり年金制度の基本についてお話しをしてきました。次回から、マクロ経済スライドが導入された2004年の年金改正の技術的な解説に移ります。その政治過程については、本HPの大林尚氏のコラムで連載がまさに始まったところです。以下、31回のなかから2004年改正を理解するにあたり前提となる知識をピックアップし、Q&A形式でまとめておきます。
(参照)コラム | 超党派年金制度改革データベース
Q1 「国民年金と厚生年金の2階建て」、「厚生年金に加入している人は、同時に国民年金にも加入している」と厚生労働省は説明します。腑に落ちません。
A1 腑に落ちないのは当然です。少なくとも年金制度への加入時は2階建てではありません。実際に加入する制度は、厚生年金保険か国民年金のいずれかです。実際、厚生年金保険加入者は、「厚生年金保険料」として18.3%を負担していますが、その内訳として国民年金保険料が示されている訳でありません。政府の説明がマズいのです。
(参照)https://nenkindb.jp/年金制度は「2階建て」ではない/
なぜ年金制度は難しいのか? | 超党派年金制度改革データベース
Q2 国民年金(基礎年金)と厚生労働省は表記します。基礎年金は国民年金の単なる別称なのでしょうか?
A2 違います。国民年金とは制度に加入する際の名称であり、基礎年金とは厚生年金保険と国民年金いずれの制度に加入しても受け取ることのできる給付の名称です。実際、国民年金保険料は存在しますが、基礎年金保険料は存在しません。基礎年金給付は存在しますが、国民年金給付は、過去の改正の名残を除き、存在しません。やはり政府の表記がマズいのです。
(参照)https://nenkindb.jp/年金制度は「2階建て」ではない/
Q3 年金財政の全体像を理解するポイントは何でしょうか?
A3 ポイントは、基礎年金拠出金の理解にあります。聞き慣れませんが、ここを抑えておかねばなりません。厚生年金保険財政の支出は、報酬比例年金の給付と基礎年金拠出金の2つ。国民年金財政の支出は、基礎年金拠出金です。基礎年金拠出金の2分の1は国庫負担です。第1号、第2号、第3号被保険者とは、基礎年金拠出金を計算する際、共通の単価に掛け合わせる頭数を指しています。この基礎年金拠出金が、基礎年金財政の収入となり、基礎年金として給付されます。
(参照)https://nenkindb.jp/第3号被保険者の費用負担/
Q4 サラリーマンの夫と専業主婦の妻から成るモデル世帯での年金額表示が多用されますが、生活者の側からみると混乱します。
A4 その通りです。例えば、厚生労働省HPの「お知らせ」では令和8年度の厚生年金は237,279円とされていますが、これもモデル世帯のものです。このなかに含まれる報酬比例年金額を知るためには、ここから基礎年金2人分を控除しなければなりません。他方、日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」は、1人ひとりに宛てたものであり、当然ながら老齢基礎年金と老齢厚生年金(報酬比例部分)に分けて表記されています。モデル世帯の定義は、年金財政の健全性を測るための定点観測の指標として残すとしても、国民向けには用いるべきではないでしょう。


(参照)
所得代替率(1)モデル世帯の留意点 | 超党派年金制度改革データベース
厚生年金保険(給付1)給付額 | 超党派年金制度改革データベース
厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001639615.pdf
Q5 毎年度の年金額の改定ルールの原則を教えて下さい。
A5 新たにもらい始める年金を新規裁定年金といい、既にもらっている年金を既裁定年金といいます。それぞれ、賃金上昇率、消費者物価上昇率で改定されるのが原則であり、賃金スライド、物価スライドといいます。もっとも、2004年の年金改正によってマクロ経済スライドが導入され、こうした原則はいったん棚上げされています。
(参照)厚生年金保険(給付2)年金額改定の原則 | 超党派年金制度改革データベース