勤務先が厚生年金保険の適用事業所であるとしても、第2号被保険者となるためにはもう1つのハードルがあります。AさんがX社と雇用契約を結ぶとします。Aさんに兼業はないとします。Aさんが第2号被保険者となるためには、X社から日本年金機構に対し、Aさんの住所、生年月日、個人番号、および、給与額(報酬月額)などを記入した「被保険者資格取得届」が提出されなければなりません。これがもう1つのハードルです。なお、Aさんに兼業がある場合については次回扱います。
Aさんが正規雇用であればほぼ問題なく「被保険者資格取得届」がX社から日本年金機構あてに提出されるでしょう。しかし、そうではない場合、ややこしくなります。現在、わが国には、正規雇用者3,654万人に対し、非正規雇用者は2,126万人います(図表1)。非正規雇用者を第2号被保険者とするか否か、基準が企業規模によって2通りに分かれるうえ、基準自体も難解なためです 。

企業規模は、売上や資本金などの財務指標が勘案されることなく、従業員数のみによって測られます。さらに、この従業員数には留意すべき点が2つあります。1つは、パートやアルバイトを含めた全従業員ではなく、X社における第2号被保険者に限定されるということです。これは、日本年金機構として正確な把握が可能であるという事情によるものと考えられます。
もう1つは、従業員数は、事業所ごとの人数ではなく、法人であれば法人全体の人数であるということです。厚生年金保険では、例えば、X社が東京本社のほかに、大阪事業所と名古屋事業所を置いている場合、本社、大阪、名古屋それぞれにおいて適用事業所となるのが原則となっています 。ところが、従業員数については、X社全体、すなわち本社と2つの事業所の第2号被保険者の合計で測ることになっています。
従業員数50人を分岐点とし、基準が異なっています。まず、従業員50人以下の場合、週所定労働時間および月所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上であることが基準となります。ちなみに、常時雇用者の週所定労働時間を37.5時間と仮定しますと、その4分の3はおおよそ28時間になります。
次に、従業員51人以上の場合、次の(A)~(D)の4つを全て満たすことが基準となります。複数の角度から「雇用者性」を測るという発想であり、「全て」であることがポイントです。
(A) 所定内賃金月額8.8万円以上
(B) 週所定労働時間20時間以上
(C) 雇用期間の見込2か月以上
(D) 学生ではない
従って、例えば、週所定内賃金が8.8万円以上であっても、週所定労働時間が20時間未満であれば第2号被保険者とはなりません。8.8万円に12をかけ1年分に換算すると105.6万円です。しばしば耳にする「106万円」は、これを丸めて慣例的に用いられている数字です。106万円は、年収の壁の1つとして認識されているようですが、年収が106万円を超えても、(B)が未充足、すなわち、週所定労働時間が20時間未満であれば、第2号被保険者とはなりません。
あるいは、8.8万円というのは、雇用契約時の基本給であって、繁忙月に残業が発生し給与が8.8万円を超えたとしてもただちに第2号被保険者となる訳ではありません。

なお、2025年6月13日に成立した年金改正法によって、こうした適用基準に修正が加えられることとなりました 。おおまかにいえば、企業規模の大小にかかわらず、週所定労働時間20時間以上の雇用者であれば、第2号被保険者にしようという趣旨です。厚生労働省は「被用者保険の適用拡大」と呼んでいます。
具体的に、1つは(A)の撤廃です。すなわち、基準は(B)かつ(C)かつ(D)となります。実施日は「公布から3年以内の政令で定める日」とされています。もう1つは、51人以上という企業規模の、2027年からの段階的引き下げと2035年における廃止です。
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短時間労働者の適用要件のうち、賃金要件を撤廃するとともに、企業規模要件を令和9年10月1日から令和17年10月1日までの間に段階的に撤廃する。 賃金要件の撤廃は「公布から3年以内の政令で定める日」。🔗001488402.pdf