『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った? ~世界一わかりやすい経済の本~』という妙に長ったらしいタイトルの新書が扶桑社から出たのは2008年のことだった。
著者の細野真宏氏は、ウィキペディアによると「予備校講師、経済解説者、映画評論家」とある。「2008年に福田康夫内閣が開催した社会保障国民会議の委員をつとめ、その際に日本の金融・経済教育の問題の深刻さを認識して書き上げた同書がAMAZONの09年度新書部門で年間ベストセラー売上げ1位を記録した」という。
扶桑社は週刊『SPA!』を発行しているフジテレビ系の出版社だ。やはりウィキによると、扶桑社新書は「国家論から恋愛事情までを扱う扶桑社の新しい顔として売り出された」。この本は年金に不信感をもつ若者の心を巧みにとらえたとみられる。

AMAZONのサイトから
出版には伏線がある。08年1月7日付日本経済新聞の社説「年金制度が崩れる前に超党派で議論を」は、こんな出だしだった。
「今の年金制度を変えずに済むならそれに越したことはない。だが保険料の未納付増加で制度は破綻する可能性が大きい。制度を変える方法は様々だが、どれも一長一短がある。そのなかで日本の風土や社会の現実に合うものとなれば、厚生・共済年金受給者の基礎年金部分を含む国民年金を全額、消費税で賄う方式が優れている」(下線筆者)。年金保険料の未納増加で制度が破綻する可能性が大きいと言ったのは、日経新聞だった。
国民皆年金を旨とする日本にあって、名実ともに真の皆年金を達成し、現役引退後の最低限の暮らしを保障するとともに、第3号被保険者制度など昭和時代にできた仕組みを刷新しようと、日経新聞は基礎年金の財源を保険料と税財源の混合方式から消費税財源に一本化する抜本的な制度改革を社論として提言したのだ。

2008年1月7日付日本経済新聞1面から
年金の最低保障機能を高めるために、保険料を下げ、消費税を増税して基礎年金の財源に充てるのが望ましいという改革論は、その当時にはじまったことではない。
厚生労働省が2004年の年金制度改革の具体策を議論しているときにも、経済学者や与党の議員連盟、また経済界、労働組合団体などの年金ステークホルダーが、基礎年金の財源は消費税に振り替えるのが望ましいとたびたび主張していた。だがこの改革案は、厚労省の年金官僚との相性がどうもよくない。消費税財源論が浮上するたびに彼らは火消しに躍起になった。
福田内閣の社会保障国民会議は年金官僚らが事務局に入り込み、議事の運営を差配していた。08年、未納問題をテーマに国民会議の分科会が東京都内で開かれた。このときの年金官僚らの論法をひと言でいうと「未納者には将来、年金を払わなくてよい。したがって年金財政が破綻することはない」というもの。未納を放置していても年金財政への長期的な影響は軽いと言いたげだった。
しかし国民年金の保険料未納率が35%で推移すると、単純計算で将来560万人が無年金や低年金になるおそれがあったのが真実である。それは生活保護費を増大させ、結果として納税者の税負担を高める。
いま思い起こしても、年金官僚らが誇ってきた皆年金制度を自らが否定するようなやり口を堂々と出してきたことに驚きを禁じ得ない。くだんの本のタイトルから察するに、分科会に出た細野氏も年金官僚らの論法をなぞったのではないか。そこには、未納問題を根本から解決しようという姿勢はみられない。
河野太郎衆院議員が繰り返してきたように「年金制度は破綻しなくとも(将来の高齢者の)年金生活が破綻しては本末転倒」なのである。